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YAYOI LOGIC

備忘用。

私たちの愛した3人の逸見エリカ

 世界にはさまざまな「逸見エリカ」さんがいる。

 それらは複雑に折り重なっているから、いまさら解体して分類することは不可能なのだけど、それぞれのエリカさんのベースになっている「大元のエリカさん」は3人くらいいる気がするので、ここらで自分のために整理しておこう。それは光の三原色みたいなもので、それらの微妙な組み合わせの違いによって、エリカさんは実にさまざまな色彩で僕たちの心の中に浮かび上がってくるんである。

 

※下記以外のエリカさんについては、

【追補】遅れてきた6人目のエリカさんについて - YAYOI LOGIC

にまとめました。

 

1. 本編エリカさん

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 全てのエリカさんの根源をなす、原初にして最果てのエリカさん。

 なんかいろいろあっても最終的にここに回帰するという意味では、∀ガンダムみたいなエリカさんだ。ここでは、「水島監督/吉田脚本/鈴木貴昭スーパーバイザー」で展開されるアニメ本編、ドラマCD、OVAあたりまでを適当に範囲内としておく。

 根源でありながら、本編エリカさんはいまいち掴みどころがない。そもそも、本編と公式サイトを見ただけでは、年齢すらわからないのだ。僕は最初、すっかり3年生だと思い込んでいた。とにかく、本編エリカさんの特徴は以下のような感じだ。

 

1) 西住みほに対して強い反発心を持っている

 これは全てのエリカさんに共通するエリカさんのレゾンデートルであり、作中での最大の役割だ。エリカさんは常に、西住みほの戦車道に対する敵対者として現れる。

 

2) 西住流と黒森峰への強い矜持を持っている

 本編エリカさんは、とかく「西住流」や「黒森峰」、いわば名門校の矜持を口にしがちだ。その辺りは、座右の銘「上知と下愚とは移らず」を反映しているのかもしれない。優秀なものは最初から優秀で、無名校は逆立ちしたって無名校なんだと思っているふしがある。

 

3) まほ隊長を尊敬しているが、時に言い返すことがある

 ここが、本編エリカさんの大きな特徴のひとつである気がする。忠犬とか言われがちなエリカさんだけど、本編では結構まほ隊長にも噛み付いている。寡黙なまほ隊長の真意を、エリカさんが読み切れていないことの表現でもあるのだけど、一方ではエリカさんが単純なシンパではなく、案外頑固で自分の筋は曲げないようなところがある、というのも分かる。

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隊長に反論している(そして却下される)時のエリカさんが一番かわいい

 

4) みほに馴れ馴れしい嫌味を飛ばす

 実はこれも、本編エリカさんに顕著(であり他のエリカさんとは少し違う)な特徴だ。サンダース戦前の「副隊長……? ああ、元、でしたね」を皮切りに、エリカさんのセリフの殆どは、みほに対する嫌味で構成されている。少ない尺と登場シーンの中で「みほの昔の知り合い」であることを表現するためもあるだろうけど、「相変わらず甘いわね。その甘さが命取りなのよ」等、とにかく「昔から知ってるんだぞ」と主張するようなニュアンスが多いようだ。

 ところで、もっとも重要なのは劇場版でのセリフ回しだ。本編だけであれば、エリカさんはまほ隊長もみほに怒ってると思っているので、尊敬する隊長の前でさんざん妹をこき下ろすのも分からなくはないけど、明らかに和解の成った劇場版の時間軸でも、口を開けばみほに嫌味を言っている。「なによそれ、迫力ないわね!」とか「急造チームでチームワークぅ?」とか、思わず言っちゃった感があるし、とにかく嫌味の距離感が近い。影では、「熱い紅茶ですね」とか言っているのに。ツンデレかお前は。

 

5) 2人きりだと、みほとも普通に話ができる

 現状、水島監督ディレクションの本編でエリカさんとみほが2人きりになったのは、ドラマCD3の黒森峰回だけだが、思ったより普通に会話している。TV版では妙にさわやかな「次は負けないわよ!」「はい!」が2人の唯一の会話だったため、2人の距離感を知るうえでは結構重要なシーンだ。有名な「エリ……逸見さん……」はここで出てくる。

 気になるのは、ここでは「みほの方がエリカに引け目を感じている」ことだ。エリカさんが嫌味を言う、みほがシリアスに落ち込んで謝る、エリカさんが冗談だと告げる…という一連の流れは、明らかにエリカさんが優位のように聞こえる。だからこそ、その後のエリカさんの「自分は西住姉妹に頼りきりだった。去年も今年も、負けたのは自分たちが弱かったから」という心情吐露が響くのだけど。

 さらに面白いのは、まほ隊長がいなくなったとたんペラペラと喋り出して、まほ隊長が戻ってきて「何かあったのか?」と心配そうに聞くと「いいえ、なんでもありません」とエリカさんが誤魔化すあたり(もちろん、まほ隊長に聞かせたい話ではないのだけど)。そのあとのまほ隊長の「そうか……」も含めて、この3人の関係って結構複雑なのでは、と思わせてくれるいいシナリオだと思う。

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この雰囲気が、みほまほエリ関係のいいところ

 

他にもいろいろあるけど、上手くまとまらないのでこの辺にしておく。

とにかく、本編エリカさんは西住みほへの馴れ馴れしい嫌味と、単純な軽蔑ではない複雑な感情で構成されている。エリカさんの座右の銘が「上知と下愚とは移らず」で、みほの座右の銘が「友情は瞬間が咲かせる花であり、時間が実らせる果実である」であるのも、面白いコントラストになっていると思う。

 

 

2.ノベライズエリカさん(水没エリカさん)

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 ある意味一番難しいのが、ひびき遊著のノベライズに登場するエリカさんだ。彼女は他の2人のエリカさんにはないひとつの大きな特徴を持っており、それがエリみほを過熱させた要因のひとつであるように思う。(ところでこのエリカさん、登場時期が遅い。3巻も後半になってから、決勝戦開始直前にようやくお出ましだ。そういう意味では、本編エリカさんは登場シーンが地味に多い。)

 

1. 水没戦車のクルーである

 これが、ノベライズエリカさんの最大の特徴だろう。彼女は、昨年度大会でプラウダの砲撃を受け、滑落し水没した戦車のクルーだった。つまり、本編では赤星小梅が担っていた「みほに助けられ、みほに感謝している黒森峰生徒」という重要な役割を、同時に担っているということになる。

 

2.赤星小梅と統合されている

 上記が意味するところは、この2番目の特徴だ。ノベライズエリカさんは、水没戦車のクルーであり、去年みほに命を救われた。では、本編で登場した赤星さんは……?というと、なんとノベライズには登場していない。赤星さんのもっとも重要なセリフである「みほさんが戦車道をやめなくてよかった」も、ここではエリカさんのセリフになっている。つまりノベライズでは、本編エリカさんと赤星さんの役割が、逸見エリカという一人のキャラクターに統合されているわけなんである。赤星さんを取り込み、さらに百合係数を高めようというの……。

 

3.決勝戦後に泣く

 実はこれも、本編エリカさんとは違う大きな特徴のひとつ。上述のように、このエリカさんは水没戦車のクルーで、みほに助けられたことに感謝しているが、彼女が逃げ出したことへの引け目の裏返しや、自分が後釜の副長であることのコンプレックスから、みほに反発するようになってしまった。だから、みほの実力を見せつけられた決勝戦後、本心を吐露したあとに、エリカさんは泣いてしまうのだ。

 そんなエリカさんの頭を、みほは優しく撫でる。作中では、まほがみほの頭を撫でたシーンの直後で、明確に対比させられている場面だ。みほに撫でられたことで、エリカさんの憑物は落ち、救われる。ノベライズエリカさんは、みほのために涙を流すのだ。

(逆に言うと、本編のエリカさんは泣かない)

 

 ノベライズエリカさんの難しさは、「赤星さんを取り込んでしまっていること」だ。これは見事な翻案だと思うけれど、その分本編との距離感が生まれてしまっている。けれども一時期、「エリカさんは実は水没戦車のクルーだった」という話だけが広まったので、ファンの中であいまいに「水没エリカさん」という概念が生まれ、これが本編エリカさんへのイメージにも流入している感がある(というか僕がそうだった)。個人的には、劇場版の描写を観る限りでは、本編ではこの設定を採用していないように思うし、本編エリカさんの魅力は、「水没していない」「赤星さんとは別人」「みほに対して罪悪感はさほどないし、泣いたりもしない」というところにある気がする。

 そうであっても、ノベライズでの決勝戦後の心情吐露シーンは、やはりとても綺麗できらきらしている。水没のイメージそのもののウェットさがあるけれど、それがノベライズエリカさん最大の魅力なんだろう。

 

3.コミカライズエリカさん(忠臣エリカさん)

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 才谷屋龍一著のコミカライズ版に登場するエリカさんは、本編エリカさんとも、ノベライズエリカさんとも大きく違う、実に特異なポジションのキャラクターだ。おそらく、「エリまほ派」の多くは、このエリカさんのイメージをベースに、本編エリカさんを再解釈している場合が多いと思う。彼女には、分かりやすい特徴がいくつかある。

 

1.裏切り者・西住みほへの義憤に燃えている

 これがコミカライズエリカさん最大の特徴だ。このエリカさんは、実に熱いオンナなんである。「みほが転校したのは仕方なかったと思う」としつつ、無神経にもその後他校で戦車道を初めたこと、転校後の黒森峰の混乱やまほ隊長の苦労に対して無自覚であったことに、「無神経過ぎる!」と声を荒げ、「裏切り者」だとこれ以上ない明確さで断言する。みほが青ざめてよろけるほどの敵意をぶつけるエリカさんは、黒森峰の代弁者であり、まほ隊長の忠実な部下であろうとし、道理を通さんとする猛将でもある。ここでは、みほこそがエリカさんにとってのヒールであり、みほは自分の行動が誰かを傷つけていたことに直面させられ、悩む。コミカライズでは、これがみほの痛みと成長の物語にもなっている。

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「部外者は口を挟まないでほしいわね」のシーンでも、迫力がこれだけ違う!

 

2.まほ隊長に心酔している

 まほ隊長への強い敬愛を持っているのが、コミカライズエリカさんの大きな特徴だ。本編エリカさんもまほ隊長を敬愛しているが、コミカライズエリカさんはさらにその上をいく。そもそも、コミカライズではサンダース戦が大幅にカットされているから、麻子を病院まで輸送するくだりがなく、エリカさんがまほ隊長に噛みつくシーンも存在していない。ここでのエリカさんは、「自分にはまほ隊長のお気持ちはわからない」ことを誠実に自覚しながら、それでも隊長の気持ちを慮って、裏切り者の妹への怒りを滾らせるのである。

 また、このエリカさんがまほ隊長に心酔するに至る前日談的エピソードは、コミックアンソロジーの才谷屋先生パートで語られている。「井の中の蛙」だった小学生エリカさんが、まほ隊長と出会って激しく反目し、激闘の末にその実力を認めて忠誠を誓うに至る一連の流れは、なんかもう三国志とかそういう世界に首を突っ込んでいて必見。

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敬愛するまほ隊長のため、憎き西住妹に因縁をつけるためだけにわざわざドラッヘを持ち出し大洗学園艦にやってきて、相手がよろけるくらい罵倒し倒してから満足気に直帰するエリカさんは、なんだかんだやっぱりエリカさんだ

 

3.みほに対する複雑な想いの描写がない

 上記の通り、まほ隊長を敬愛し妹への義憤を滾らせるエリカさんなので、みほに対する複雑な心情を表現するようなシーンはオミットされている。一番わかり易いのが、赤星さんがみほに「戦車道をやめないでよかった」と告げるシーンだ。このシーン、本編では嫌味を言い終わって立ち去ったはずのエリカさんが、実は立ち止まって聞いていて、なんとも言えない表情で2人を見る。みほの「甘っちょろさ」に対して、エリカさんが複雑な思いを抱えていることを匂わせるカットだが、コミカライズでは同じ場面があるのに、その1カットだけが再現されていない。たった一瞬の表情だが、その有無の意味は大きい。猛将は振り返ったりしないのだ。

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ちなみに、本編のエリカさんではここが一番好きだ

 

4.決勝戦後に泣く

 そんな猛将で忠臣のエリカさんも、ノベライズエリカさんと同じく、決勝戦後に涙を流す。しかし、そのニュアンスは大きく変わっている。

 激闘の後、まほ隊長に促されたエリカさんは、さわやかな笑顔で「負けたわ……。でも次は私たちが勝つ番よっ! 次戦う日を楽しみにしているわ!」と声をかけ、大洗の面々を驚かせる。これにみほが「わたしの方こそありがとうございました!」と答えることで、コミカライズでのみほとエリカさんの物語は終わるのだけど、エリカさんにはまだ続きがある。

 ここでのまほ隊長は、忠臣エリカさんを深く愛し、教え諭す立場だ。だから、「素直に負けを認めること」の大切さを説くし、それがちゃんとできたエリカさんをちゃんと褒める。つまり、エリカさんのみほへの言葉は、まほ隊長が指し示す「戦車道精神」の実践でしかない。そして、忠臣エリカさんは感極まって泣いてしまうのである。敬愛するまほ隊長と一緒に優勝できなかったことへの悔しさによって。コミカライズエリカさんは、まほ隊長のために涙を流すのだ。

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もはや本編とは違う独自の世界が展開されている感もあるが、実に胸に迫るいいシーン

 

遍く総てのエリカさんに恋して

 結局のところ、「メディアミックスはパラレル、それぞれの作者の個性を尊重する」というガルパン制作サイドのポリシーと、「尺も進行も間に合ってなくて、エリカさんをしっかり描写しきれなかった」というやむを得ない事情とが絡み合い、この世に3種類のエリカさんを発生させてしまって、さらにそれらがファンの中で複雑に混ざり合って、万華鏡のようにさまざまなエリカさんがネットの海で輝いている……というのが、今現在の状況なのだと思う。

 本編の補完に、ノベライズを採用すればエリみほになる。コミカライズを採用すればエリまほになる。カップリング論争的には、実に厄介な状況だとも言えるし、各メディアでのエリカさん描写の微妙な差異が、三原色的に重ねあわせてみるとなんだか愉快な色彩になってしまっているのも否めないだろう。

 だけど、こうして並べてみてもなおのこと、あるいはなおさら、僕は逸見エリカというキャラクターのことが好きだなあ、と、ぼんやりと気付かされるんである。こうしたキャラクター性のゆらぎも、物語文化の楽しみのひとつだ。恐らく意図されたものでないからこそ、みんなの想像力を掻き立てるし、エリカさんの魅力もまた色濃くなっていくんだろう。

 そういう意味では、それぞれのエリカさん像を尊重しつつ、お互いのエリカさん像のルーツをおぼろげにでも把握しておくことには、何らかの積極的な意義があるんじゃなかろうかと思い、与太話ながら記事にまとめてみた。リボンの武者では、ドラマCD5では、そして劇場版BDの特典では、どのようなエリカさん像が描かれるんだろうか(出番はあるよね!?)。今から楽しみでならない。

 つまるところ、エリカさんには、人生に大切なことが全て詰まっているんだなあ。

 

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ところで、まほお姉ちゃんに話かけるときだけエリカさんの声音と表情が違うの、妹のみほにとっては結構しんどいんじゃないだろうか