YAYOI LOGIC

備忘用。

【追補】遅れてきた6人目のエリカさんについて

「エリカさん、3人ってことはないよね?」という声もあったので、どちらかというとより二次創作的な位置づけが強いのかなと思って省略したお三方についても、メモ書き程度にまとめておきます。

 

4.「らぶらぶ作戦」エリカさん(“あの子”エリカさん)

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 弐尉マルコ著の公式スピンオフコメディ『もっとらぶらぶ作戦です!』に登場するエリカさん。スピンオフコメディ漫画という性格上、肩の力を抜いたお祭り的な内容が多いため扱いは難しい。同じスピンオフでも、『咲 -saki-』の『咲日和』なんかは、作者から「正史である」ことが宣言されているけれども…。

 ほのぼの百合コメディからシュールなギャグまで、各キャラが自由に楽しく描かれている本作なので、エリカさんもさまざまな場面で愉快に描かれているけれど、やはりいくつか特徴はあるようだ。

 そもそも弐尉マルコ氏は、いちファンの立場として、みほまほエリのブラックなコメディなどを描いていらっしゃったところ、公式サイドに捕まって(?)、マンゴーをもぐなどの過酷な自我研修を受けた結果、ほのぼのみほエリ漫画(「迷子です!」)などを描き、多くのファンをエリみほ沼に突き落とす一因ともなった。それだけに、公式サイドからの「逸見エリカ観」を邪推する上では、貴重な資料でもある。

 

1)二人称が不安定

 本編エリカさんの二人称は、徹底して「あなた」に統一されている。「アンタ」とか言ってそうなイメージに反して、育ちがいいのか丁寧な印象だ。その点、『もっとらぶらぶ作戦です!』では、「あんた」の回(「迷子です!」「ライバルは宝物です!」)と「あなた」の回(「バレンタイン・黒森峰です!」)、さらに「貴方(ルビ:あなた)」の回(「カチューシャ日記です! 〜第二章〜」)があったりと地味に不安定だ。「あなた」と「あんた」では、一字違いだが大きな差があるので、エリカさん好きを常に悩ませる問題であるといえる。

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個人的には「あなた」呼びを推したい

 

2)まほ隊長を敬愛していて、みほに馴れ馴れしい嫌味を言う

 このあたりは、本編の内容を元にパロディや敷衍を行う『もっとらぶらぶ作戦です!』らしく、TV版の描写に比較的沿っていると思う。みほに対して義憤を滾らせていたり、罪悪感を感じていたりするそぶりはない。また、まほ隊長に対しては顔を真っ赤にして照れるなど、ドラマCD4でも見られたミーハーな一面を垣間見せてくれる。

 

3)みほに対して複雑な感情を抱いている

 これも、本編の内容を補完するような描写だけれども、その「複雑」っぷりは半端なく、コメディ中心でメリハリの効いた作風の中にあって、エリカさんがみほと絡んだり、彼女のことを思い出すような場面では、実にしっとりとして真意をはぐらかすような演出がなされがちだ。

 大まかに見ると、みほに対しては以下のようなスタンスであることが分かる。

 

 ・昔から事あるごとに嫌味や批判、注意をしていた(「真夏の納涼!怪談大会です!」)

 ・手を繋いで腕を引く、好みのお菓子を覚えている、「戦車を降りると頼りない」性格を憎からず思っている等、昔から世話焼きだった(「迷子です!」)

 ・「みほのいた頃」を回想するときは、明確な心情が語られない/心情を言語化できない(「バレンタイン・黒森峰です!」)

 

 このため、「昔はガミガミ文句を言いながらも憎からず思っていたんではないか」「みほがいなくなったことに、憤りや軽蔑以外の感情を抱いているのではないか」と思わせるものの、今のところそれ以上が語られたことはない。乙女心となんとやら。

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みほがいたころのバレンタインデーを思い出すエリカさん。明確に語られないからこそ、そこにあるはずの感情が際立つ

 

4)表情がとても豊か

 作風もあるけれど、本作のエリカさんはとても表情が豊かだ。怒ったり落ち込んだり照れたり目を輝かせて喜んだり、むすっとしたりすまし顔をしたり笑ったり慌てたり青ざめたり。この辺の、感情表現がストレートだけど性格的には素直ではない、という微妙な塩梅は、本編のそれに近い。他の媒体と比べても、ここでしか見れない表情は数知れず、ファンにとっても「エリカさんの表情イメージ」として印象深いものになっていると思う。

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たった一話でこれだけある。ひたすらかわいい

 

5)私服姿が見られる

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 本編はもとより、さまざまな媒体に展開される版権イラストですら私服姿のないエリカさんの、オフでの姿を見られるのは『もっとらぶらぶ作戦です!』だけ! ストイックな印象で、イメージ通りといえばイメージ通りだけれども、一方で謎の回想回では「例のパジャマ」も意識させるなど、侮れない。むしろいっそエリカさんの私生活の謎は深まった感がある。

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正直な話、「私服姿」なら版権絵タペストリーのこれが最強だ。フェミニン極まりない引っ込み思案のお嬢様、というイメージが黙してかつ雄弁に語られてしまった。マルコ先生の「あの子」回はこのイメージを物語化したものとも言える

 

『もっとらぶらぶ作戦です!』は、本編のサブテキストとしては立ち位置が難しいが、こと描写の少ないエリカさんについては、本編の「行間」を埋めるような描かれ方が多い。その上で、「迷子です!」「バレンタイン・黒森峰です!」「あの子(WEB出張版)」のような爆弾をしれっと投げ込んでくるという、油断ならない作品と言える。

 

5.リトルアーミーⅡのエリカさん(隊長エリカさん)

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 槌居著『リトルアーミーⅡ』に登場する、黒森峰女学園新隊長としての逸見エリカさん。『リトルアーミー』は、みほの小学生時代から始まる物語であり、『リトルアーミーⅡ』は彼女の小学生時代の友達・中須賀エミが主役となる物語だ。だから、ここではエリカさんはエミの歩む道を妨げる壁として登場する。その分、若干影も薄いが、いくつか特徴はあるようだ。

 

1)まほ隊長を敬愛し、みほのことは一切言及しない

 ある意味これが最大の特徴だろう。『リトルアーミーⅡ』では、エリカさんからみほに対する言及は一切ない。エミにとって、「自分の知らないみほの高校生の友達」があんこうチームなら、「自分の知らないみほの中学時代の同級生」がエリカさんになるのだけど、ストーリー上では特に取り上げられることはない。まほ隊長の後を継ぐ者として、その名に恥じない戦いをしようとしている点では、コミカライズの忠臣エリカさんを彷彿とさせる。

 

2)意外と表情が豊か

 そうでありつつ、このエリカさんはドヤ顔や余裕顔、じと顔などなど「エリカさんらしい」嫌味な表情をいろいろと見せてくれる。主に後輩のツェスカやライバルのエミに対して向けられるものだが、この辺はコミカライズエリカさんとは違うところだ。慢心にも見える自信満々な態度は、あくまでもまほ隊長の尖兵たらんとするコミカライズエリカさんの自信とは、少し毛色が違う。なにより、ギャグもこなせる(というかコメディリリーフぽさもある)点で、大きな差がある。

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 こういう表情が、ネットでの愉快な扱いにつながっていく面もある気がする

3)髪が長い

 地味だが案外気になる特徴のひとつ。本編では肩くらいまでの長さだったエリカさんの髪が、ここでは腰に届かんばかりに伸びている。大会終了後から伸ばしていたのかもしれない。

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ドヤ顔ガッツポーズが哀しいほどよく似合う

 

4)みほと再戦できない

 個人的には極めて重要な特徴だ。そもそも、『リトルアーミーⅡ』はエミがみほと再会するまでの物語で、その途中に立ちふさがるエリカさんは、どんなかたちであれ敗退するのだろうと思われていたが……。衝撃的なその結末は、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。

 

 

6.リボンの武者のエリカさん(団長エリカさん)

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 野上武志×鈴木貴昭著『リボンの武者』に登場するエリカさん。黒森峰のタンカスロン義勇軍シュバルツバルト戦闘団(カンプグルッペ)」の団長という役回りだ。作者本人は「二次創作」と語る本作だが、お二人とも本編の主要スタッフであり、特に鈴木氏は雑誌掲載の「逸見エリカインタビュー」記事やドラマCD3の黒森峰回に関わり、エリカさんの掘り下げを各所で行ってきた人物。そのため、エリカさんの登場には大きな期待が寄せられていた。果たして、その期待は裏切られることがなかった。その特徴は、だいたい以下のような感じだ。

 

1)まほ隊長を敬愛し、みほに対して極めて強烈な執着を抱いている

 これが、『リボンの武者』におけるエリカさんの最大の特徴だろう。彼女はハッキリと、自分の眼中にあるのは「西住みほ」だけであると断言し、再び彼女と並び立つ日を夢見て、その前に立ちはだかるものは何であれ粉砕するという強い覚悟を持っている。ドラマCD3を漫画化した場面が登場することからも分かる通り、本作はドラマCD3の設定を引き継いでおり、そこで語られたみほとの関係、そして「再戦」の約束が、改めて強烈にクローズアップされている。

 西住まほの後を継ぎ、西住みほと並び立つ。甘えを捨て、強烈な覚悟で立つ肥後侍こそ、本作のエリカさんだ。

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これまで「黒塗りの怖い人」として登場し続けてきた本作のみほが、あわあわしたいつものみぽりんとしての姿を初めて表したのが、エリカさんの回想の中であるという事実も、実に味わい深い

 

2)みほへの感情をはっきりと言語化している

 「あなたがいなくなって以来、私はより肩肘をはって生きてきた」「でもあなたはあっけらかんと戦車道に戻ってきて、他校であんなに楽しそうに…」等々、みほへの感情をハッキリと言語化している。それは、ノベライズともコミカライズとも毛色の違うものだった。みほを少なからず心配していたこと(ドラマCD3の漫画化シーンで、みほの笑顔を見て安堵の笑みを漏らすシーンでわかる)、大洗での姿にイライラしていたこと、遠くへ行ってしまったと感じていること…。かつての友人として、ライバルとして、敬愛する隊長の妹として、このエリカさんはみほのことを憎からず思っているようだ。

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それにしても、エリカさんのあんこうチーム像は、悪いインターネットに毒されすぎている。それだけ腹が立っていたんだろう

 

3)西住姉妹に頼りきりだったことを自覚し、向き合っている

 団長エリカさんの根幹をなす性質であり、「逸見エリカインタビュー」「少し久しぶりの黒森峰です(ドラマCD3)」と続いて鈴木貴昭氏が描いてきたエリカさん像を継承する描写とも言える。

 ここでのエリカさんは、自分が「(戦車道においては)西住姉妹に頼りすぎて、その背に隠れるようにして生きてきてしまった」ということを自覚している。そして、その弱さが黒森峰のニ連敗の要因でもあると感じている。だからこそ、まほ隊長が引退し、みほももう戻って来ないであろう来年に向けて、「もう自分には隠れる背中などない」という事実に向き合い、「西住まほを継ぎ、西住みほに並び立つ」ことを誓っている。つまり、西住姉妹の「おまけ」ではない、ただ一人の戦車道人として立とうという決意である。その行く末がどうなるのか? それは、楯無高校戦の決着が教えてくれるのかもしれない。

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敬愛する2人の背中。もはやそこにこそこそと隠れるエリカさんではない

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まあ、隠れてる姿も可愛いんだけど

 

 

以上、駆け足ですが、6人目のエリカさんまで、整理してみました。

個人的には、本編との接続が強い団長エリカさんが好きですが……今後、本編ではどのような補完がされるのでしょうか。三千世界のエリカさんを思いつつ、気長に待ちたいと思う今日このごろです。

私たちの愛した3人の逸見エリカ

 世界にはさまざまな「逸見エリカ」さんがいる。

 それらは複雑に折り重なっているから、いまさら解体して分類することは不可能なのだけど、それぞれのエリカさんのベースになっている「大元のエリカさん」は3人くらいいる気がするので、ここらで自分のために整理しておこう。それは光の三原色みたいなもので、それらの微妙な組み合わせの違いによって、エリカさんは実にさまざまな色彩で僕たちの心の中に浮かび上がってくるんである。

 

※下記以外のエリカさんについては、

【追補】遅れてきた6人目のエリカさんについて - YAYOI LOGIC

にまとめました。

 

1. 本編エリカさん

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 全てのエリカさんの根源をなす、原初にして最果てのエリカさん。

 なんかいろいろあっても最終的にここに回帰するという意味では、∀ガンダムみたいなエリカさんだ。ここでは、「水島監督/吉田脚本/鈴木貴昭スーパーバイザー」で展開されるアニメ本編、ドラマCD、OVAあたりまでを適当に範囲内としておく。

 根源でありながら、本編エリカさんはいまいち掴みどころがない。そもそも、本編と公式サイトを見ただけでは、年齢すらわからないのだ。僕は最初、すっかり3年生だと思い込んでいた。とにかく、本編エリカさんの特徴は以下のような感じだ。

 

1) 西住みほに対して強い反発心を持っている

 これは全てのエリカさんに共通するエリカさんのレゾンデートルであり、作中での最大の役割だ。エリカさんは常に、西住みほの戦車道に対する敵対者として現れる。

 

2) 西住流と黒森峰への強い矜持を持っている

 本編エリカさんは、とかく「西住流」や「黒森峰」、いわば名門校の矜持を口にしがちだ。その辺りは、座右の銘「上知と下愚とは移らず」を反映しているのかもしれない。優秀なものは最初から優秀で、無名校は逆立ちしたって無名校なんだと思っているふしがある。

 

3) まほ隊長を尊敬しているが、時に言い返すことがある

 ここが、本編エリカさんの大きな特徴のひとつである気がする。忠犬とか言われがちなエリカさんだけど、本編では結構まほ隊長にも噛み付いている。寡黙なまほ隊長の真意を、エリカさんが読み切れていないことの表現でもあるのだけど、一方ではエリカさんが単純なシンパではなく、案外頑固で自分の筋は曲げないようなところがある、というのも分かる。

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隊長に反論している(そして却下される)時のエリカさんが一番かわいい

 

4) みほに馴れ馴れしい嫌味を飛ばす

 実はこれも、本編エリカさんに顕著(であり他のエリカさんとは少し違う)な特徴だ。サンダース戦前の「副隊長……? ああ、元、でしたね」を皮切りに、エリカさんのセリフの殆どは、みほに対する嫌味で構成されている。少ない尺と登場シーンの中で「みほの昔の知り合い」であることを表現するためもあるだろうけど、「相変わらず甘いわね。その甘さが命取りなのよ」等、とにかく「昔から知ってるんだぞ」と主張するようなニュアンスが多いようだ。

 ところで、もっとも重要なのは劇場版でのセリフ回しだ。本編だけであれば、エリカさんはまほ隊長もみほに怒ってると思っているので、尊敬する隊長の前でさんざん妹をこき下ろすのも分からなくはないけど、明らかに和解の成った劇場版の時間軸でも、口を開けばみほに嫌味を言っている。「なによそれ、迫力ないわね!」とか「急造チームでチームワークぅ?」とか、思わず言っちゃった感があるし、とにかく嫌味の距離感が近い。影では、「熱い紅茶ですね」とか言っているのに。ツンデレかお前は。

 

5) 2人きりだと、みほとも普通に話ができる

 現状、水島監督ディレクションの本編でエリカさんとみほが2人きりになったのは、ドラマCD3の黒森峰回だけだが、思ったより普通に会話している。TV版では妙にさわやかな「次は負けないわよ!」「はい!」が2人の唯一の会話だったため、2人の距離感を知るうえでは結構重要なシーンだ。有名な「エリ……逸見さん……」はここで出てくる。

 気になるのは、ここでは「みほの方がエリカに引け目を感じている」ことだ。エリカさんが嫌味を言う、みほがシリアスに落ち込んで謝る、エリカさんが冗談だと告げる…という一連の流れは、明らかにエリカさんが優位のように聞こえる。だからこそ、その後のエリカさんの「自分は西住姉妹に頼りきりだった。去年も今年も、負けたのは自分たちが弱かったから」という心情吐露が響くのだけど。

 さらに面白いのは、まほ隊長がいなくなったとたんペラペラと喋り出して、まほ隊長が戻ってきて「何かあったのか?」と心配そうに聞くと「いいえ、なんでもありません」とエリカさんが誤魔化すあたり(もちろん、まほ隊長に聞かせたい話ではないのだけど)。そのあとのまほ隊長の「そうか……」も含めて、この3人の関係って結構複雑なのでは、と思わせてくれるいいシナリオだと思う。

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この雰囲気が、みほまほエリ関係のいいところ

 

他にもいろいろあるけど、上手くまとまらないのでこの辺にしておく。

とにかく、本編エリカさんは西住みほへの馴れ馴れしい嫌味と、単純な軽蔑ではない複雑な感情で構成されている。エリカさんの座右の銘が「上知と下愚とは移らず」で、みほの座右の銘が「友情は瞬間が咲かせる花であり、時間が実らせる果実である」であるのも、面白いコントラストになっていると思う。

 

 

2.ノベライズエリカさん(水没エリカさん)

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 ある意味一番難しいのが、ひびき遊著のノベライズに登場するエリカさんだ。彼女は他の2人のエリカさんにはないひとつの大きな特徴を持っており、それがエリみほを過熱させた要因のひとつであるように思う。(ところでこのエリカさん、登場時期が遅い。3巻も後半になってから、決勝戦開始直前にようやくお出ましだ。そういう意味では、本編エリカさんは登場シーンが地味に多い。)

 

1. 水没戦車のクルーである

 これが、ノベライズエリカさんの最大の特徴だろう。彼女は、昨年度大会でプラウダの砲撃を受け、滑落し水没した戦車のクルーだった。つまり、本編では赤星小梅が担っていた「みほに助けられ、みほに感謝している黒森峰生徒」という重要な役割を、同時に担っているということになる。

 

2.赤星小梅と統合されている

 上記が意味するところは、この2番目の特徴だ。ノベライズエリカさんは、水没戦車のクルーであり、去年みほに命を救われた。では、本編で登場した赤星さんは……?というと、なんとノベライズには登場していない。赤星さんのもっとも重要なセリフである「みほさんが戦車道をやめなくてよかった」も、ここではエリカさんのセリフになっている。つまりノベライズでは、本編エリカさんと赤星さんの役割が、逸見エリカという一人のキャラクターに統合されているわけなんである。赤星さんを取り込み、さらに百合係数を高めようというの……。

 

3.決勝戦後に泣く

 実はこれも、本編エリカさんとは違う大きな特徴のひとつ。上述のように、このエリカさんは水没戦車のクルーで、みほに助けられたことに感謝しているが、彼女が逃げ出したことへの引け目の裏返しや、自分が後釜の副長であることのコンプレックスから、みほに反発するようになってしまった。だから、みほの実力を見せつけられた決勝戦後、本心を吐露したあとに、エリカさんは泣いてしまうのだ。

 そんなエリカさんの頭を、みほは優しく撫でる。作中では、まほがみほの頭を撫でたシーンの直後で、明確に対比させられている場面だ。みほに撫でられたことで、エリカさんの憑物は落ち、救われる。ノベライズエリカさんは、みほのために涙を流すのだ。

(逆に言うと、本編のエリカさんは泣かない)

 

 ノベライズエリカさんの難しさは、「赤星さんを取り込んでしまっていること」だ。これは見事な翻案だと思うけれど、その分本編との距離感が生まれてしまっている。けれども一時期、「エリカさんは実は水没戦車のクルーだった」という話だけが広まったので、ファンの中であいまいに「水没エリカさん」という概念が生まれ、これが本編エリカさんへのイメージにも流入している感がある(というか僕がそうだった)。個人的には、劇場版の描写を観る限りでは、本編ではこの設定を採用していないように思うし、本編エリカさんの魅力は、「水没していない」「赤星さんとは別人」「みほに対して罪悪感はさほどないし、泣いたりもしない」というところにある気がする。

 そうであっても、ノベライズでの決勝戦後の心情吐露シーンは、やはりとても綺麗できらきらしている。水没のイメージそのもののウェットさがあるけれど、それがノベライズエリカさん最大の魅力なんだろう。

 

3.コミカライズエリカさん(忠臣エリカさん)

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 才谷屋龍一著のコミカライズ版に登場するエリカさんは、本編エリカさんとも、ノベライズエリカさんとも大きく違う、実に特異なポジションのキャラクターだ。おそらく、「エリまほ派」の多くは、このエリカさんのイメージをベースに、本編エリカさんを再解釈している場合が多いと思う。彼女には、分かりやすい特徴がいくつかある。

 

1.裏切り者・西住みほへの義憤に燃えている

 これがコミカライズエリカさん最大の特徴だ。このエリカさんは、実に熱いオンナなんである。「みほが転校したのは仕方なかったと思う」としつつ、無神経にもその後他校で戦車道を初めたこと、転校後の黒森峰の混乱やまほ隊長の苦労に対して無自覚であったことに、「無神経過ぎる!」と声を荒げ、「裏切り者」だとこれ以上ない明確さで断言する。みほが青ざめてよろけるほどの敵意をぶつけるエリカさんは、黒森峰の代弁者であり、まほ隊長の忠実な部下であろうとし、道理を通さんとする猛将でもある。ここでは、みほこそがエリカさんにとってのヒールであり、みほは自分の行動が誰かを傷つけていたことに直面させられ、悩む。コミカライズでは、これがみほの痛みと成長の物語にもなっている。

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「部外者は口を挟まないでほしいわね」のシーンでも、迫力がこれだけ違う!

 

2.まほ隊長に心酔している

 まほ隊長への強い敬愛を持っているのが、コミカライズエリカさんの大きな特徴だ。本編エリカさんもまほ隊長を敬愛しているが、コミカライズエリカさんはさらにその上をいく。そもそも、コミカライズではサンダース戦が大幅にカットされているから、麻子を病院まで輸送するくだりがなく、エリカさんがまほ隊長に噛みつくシーンも存在していない。ここでのエリカさんは、「自分にはまほ隊長のお気持ちはわからない」ことを誠実に自覚しながら、それでも隊長の気持ちを慮って、裏切り者の妹への怒りを滾らせるのである。

 また、このエリカさんがまほ隊長に心酔するに至る前日談的エピソードは、コミックアンソロジーの才谷屋先生パートで語られている。「井の中の蛙」だった小学生エリカさんが、まほ隊長と出会って激しく反目し、激闘の末にその実力を認めて忠誠を誓うに至る一連の流れは、なんかもう三国志とかそういう世界に首を突っ込んでいて必見。

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敬愛するまほ隊長のため、憎き西住妹に因縁をつけるためだけにわざわざドラッヘを持ち出し大洗学園艦にやってきて、相手がよろけるくらい罵倒し倒してから満足気に直帰するエリカさんは、なんだかんだやっぱりエリカさんだ

 

3.みほに対する複雑な想いの描写がない

 上記の通り、まほ隊長を敬愛し妹への義憤を滾らせるエリカさんなので、みほに対する複雑な心情を表現するようなシーンはオミットされている。一番わかり易いのが、赤星さんがみほに「戦車道をやめないでよかった」と告げるシーンだ。このシーン、本編では嫌味を言い終わって立ち去ったはずのエリカさんが、実は立ち止まって聞いていて、なんとも言えない表情で2人を見る。みほの「甘っちょろさ」に対して、エリカさんが複雑な思いを抱えていることを匂わせるカットだが、コミカライズでは同じ場面があるのに、その1カットだけが再現されていない。たった一瞬の表情だが、その有無の意味は大きい。猛将は振り返ったりしないのだ。

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ちなみに、本編のエリカさんではここが一番好きだ

 

4.決勝戦後に泣く

 そんな猛将で忠臣のエリカさんも、ノベライズエリカさんと同じく、決勝戦後に涙を流す。しかし、そのニュアンスは大きく変わっている。

 激闘の後、まほ隊長に促されたエリカさんは、さわやかな笑顔で「負けたわ……。でも次は私たちが勝つ番よっ! 次戦う日を楽しみにしているわ!」と声をかけ、大洗の面々を驚かせる。これにみほが「わたしの方こそありがとうございました!」と答えることで、コミカライズでのみほとエリカさんの物語は終わるのだけど、エリカさんにはまだ続きがある。

 ここでのまほ隊長は、忠臣エリカさんを深く愛し、教え諭す立場だ。だから、「素直に負けを認めること」の大切さを説くし、それがちゃんとできたエリカさんをちゃんと褒める。つまり、エリカさんのみほへの言葉は、まほ隊長が指し示す「戦車道精神」の実践でしかない。そして、忠臣エリカさんは感極まって泣いてしまうのである。敬愛するまほ隊長と一緒に優勝できなかったことへの悔しさによって。コミカライズエリカさんは、まほ隊長のために涙を流すのだ。

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もはや本編とは違う独自の世界が展開されている感もあるが、実に胸に迫るいいシーン

 

遍く総てのエリカさんに恋して

 結局のところ、「メディアミックスはパラレル、それぞれの作者の個性を尊重する」というガルパン制作サイドのポリシーと、「尺も進行も間に合ってなくて、エリカさんをしっかり描写しきれなかった」というやむを得ない事情とが絡み合い、この世に3種類のエリカさんを発生させてしまって、さらにそれらがファンの中で複雑に混ざり合って、万華鏡のようにさまざまなエリカさんがネットの海で輝いている……というのが、今現在の状況なのだと思う。

 本編の補完に、ノベライズを採用すればエリみほになる。コミカライズを採用すればエリまほになる。カップリング論争的には、実に厄介な状況だとも言えるし、各メディアでのエリカさん描写の微妙な差異が、三原色的に重ねあわせてみるとなんだか愉快な色彩になってしまっているのも否めないだろう。

 だけど、こうして並べてみてもなおのこと、あるいはなおさら、僕は逸見エリカというキャラクターのことが好きだなあ、と、ぼんやりと気付かされるんである。こうしたキャラクター性のゆらぎも、物語文化の楽しみのひとつだ。恐らく意図されたものでないからこそ、みんなの想像力を掻き立てるし、エリカさんの魅力もまた色濃くなっていくんだろう。

 そういう意味では、それぞれのエリカさん像を尊重しつつ、お互いのエリカさん像のルーツをおぼろげにでも把握しておくことには、何らかの積極的な意義があるんじゃなかろうかと思い、与太話ながら記事にまとめてみた。リボンの武者では、ドラマCD5では、そして劇場版BDの特典では、どのようなエリカさん像が描かれるんだろうか(出番はあるよね!?)。今から楽しみでならない。

 つまるところ、エリカさんには、人生に大切なことが全て詰まっているんだなあ。

 

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ところで、まほお姉ちゃんに話かけるときだけエリカさんの声音と表情が違うの、妹のみほにとっては結構しんどいんじゃないだろうか